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東京医科大学 元臨床プロテオームセンター教授 外科学第一講座客員教授 (株)バイオシス・テクノロジーズ CTO (株)メディカル・プロテオスコープ 執行役員 西村俊秀先生

背景

 GSKのプロテオミクスの技術開発の時代から数々の共同研究を続けてきました東京医科大学 外科第一講座の西村先生に執筆いただきました。総体を見るというオーム(プロテオーム、ゲノムなど)という考え方、技術、論理面に対してパラダイムシフトの提言、またプロテオミクスがどのように社会に貢献できる技術と進化すべき方向性などにつて述べていただきました。
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関連製品

ホルマリン固定組織可溶化バッファーLiquid Tissue™ MS Protein Prep キット
スプリットレス高耐圧ナノLCシステム ADVANCE UHPLC
レーザーマイクロダイセクション Leica LMD7000

関連資料

2011JHUPO胆道癌新規診断バイオマーカー候補のSRM MSマルチプル検証アッセイ.pdf

2010JHUPO胆道癌FFPE組織を用いた網羅的プロテオーム解析による新規バイオマーカーの探索と検証.pdf
2010JHUPOホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織切片の臨床プロテオーム解析における基礎パラメータの検討.pdf
2010JHUPO_FFPE組織を用いたレトロスペクティブプロテオミクスによる膵癌新規予後予測マーカーの探索.pdf

 

提言

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 小職らは、1998年に日本グラクソ株式会社筑波研究所(現在、GlaxoSmithKline)で創薬プロテオミクスを目指す基盤技術部を立ち上げて以来、プロテオミクスが最も役立つ分野として臨床検体を用いたタンパク質バイオマーカーおよび薬剤標的の探索・検証研究(臨床プロテオミクスまたプロテオーム研究と云われてきたが、最近一般的に「プロテオーム」という言葉はどういう訳だか、科研費申請では評判が宜しくないようである)であるということを直感的に思った。それ以降、2002年に東京医科大臨床プロテオームセンターでの臨床研究推進により患者治療成績の向上や副作用、診断マーカーを探索研究するために、理学出身の小職は、所謂、もっともヒエラルキーの確立した医学界(臨床医、病理医、基礎医学)の諸先生の中に飛び込んで、臨床プロテオミクスを注力して活動をしきた。

                          西村 俊秀 先生
 

   当初、「血液」(臨床プロテオームが標榜された頃に最も侵襲性の低い臨床検体として探索試料の理想とされた)を用いたプロテオミクス技術の開発とプロテオーム解析を展開していた。一番衝撃を受けたプロジェクトは、昨今、訴訟のニュースが耳に入ってくる、イレッサ(Iressa®, Gefitinib, ZD1839)の副作用、間質性肺炎のリスク因子の解明であった。時代の要請に従い、約4,000人のコホート患者に対する市販後調査研究の一環として、小職らが血液を用いた大規模(これまでで最大にして唯一の)血液プロテオーム研究を某製薬企業とともに実施した。(成果は、参考文献にて)。当時のベストな質量分析計ですら、まだ低流速LCと質量分析とをインターフェースするエレクトロスプレー(ESI)プローブは「開放系」であったため、環境からのイオン化への影響が、測定バッチ間のプロファイル差として、生物学的な差以上に容易に反映した。また、血液中タンパク質の発現ダイナミックレンジは非常に広く、101〜1012 pg/mLで既存腫瘍マーカーは103 pg/mLレベルで、主要なプラズマ・タンパク質を取り除いても、1/1,000,000,000の“確率”を実現するのはJAXA「はやぶさ」プロジェクトと同じくらいの難度で、最高レベルの技術が求められる。

 
 
 
『観測でできる世界が、知我々が実証的に議論できる世界のすべてである』と立場
(Ion current-based approach or Knowledge- / Identification-based approach ?)

 また、例えば悪性腫瘍疾病群と良性腫瘍群など2群比較解析では、これまでショットガン解析の3次元データ(RT, m/z, Ipeptide)マップ比較(アライメント、規格化)を行い、シグナルとしてどれが各群に有意かを評価する方法(Ion current-based approach)は当初から、たくさんのシグナルをキャプチャーできるとして開発され、現在、幾つかの比較ソフトが利用できる状況にある。これに対して、ペプチド・タンパク質同定結果に結び付いたMS/MSスペクトルを勘定する知識ベースの方法(Knowledge- / Identification-based approach)、スペクトラル・カウント法(Spectral counting approach)がかなり有効な比較解析のデータとなることが実証されてきている。ペプチド・シグナル強度に基づく手法ではまだ有効性が見えてきていない。これは、ひとつには、ペプチドにばらばらにしたものを比較するという間接的なタンパク質発現比較となっていることもある。最近このイオン・カレントに基づく比較解析に対する科学的な批判が世界的に多くなってきている。

  スペクトラル・カウント法の進展は非常に大きい。また、簡単なバージョンでも、「タンパク質としての発現」に推定して比較していることが成功の大きな理由でもある。『観測でできる世界が、知我々が実証的に議論できる世界のすべてである』という立場に立てば、新規のアルゴリズムに基づく探索的タンパク質・ぺプチド配列決定により、生データの100%が同定できることが理想である(実際には、現在LC-MSデータの約30%しか利用できていない。これを80%に引き上げる情報科学的な開発が進行中である)。

 
 
バイオインフォマティクスが実験者自身に「自由化される」時代が来た
 
 いずれにしても、探索解析のプラットフォームはほぼ確立してきた。いまや、LC-MS生データから最後の有意バイオマーカーリストの獲得まで、いわゆるバイオインフォマティクス専門家に『神頼み』(「ブラックボックスとも云う」)するような状況は消滅しつつある。世界をリードするバイオインフォマティシャンが、多様なフリー解析ツール、統計検定などをWEB上で公開して、このような研究を行う実験者自身でバイオマーカー探索(仮説形成)(最終的な候補リストの作製まで)ができる状況が生まれつつある。将に臨床プロテオーム・バイオマーカー研究が「大きな束縛」から解放される時代となり、この科学により個別化医療に向けた臨床医学研究・創薬開発のスピードと質を急速に高めていくことは間違いない。
 
 
 

「観測されなければ証明されていない」(科学実証主義)

(探索的網羅研究から標的分子の検出・定量研究への大きなシフト)

 
 バイオマーカー研究は、生体分子の網羅的・探索的解析から、調べたい標的分子を複雑な臨床検体(組織・血液など)で検出・定量することが重要な段階に入っている。探索的に網羅的にリストを作成すること自体が、科学的意義のある「仮説」を提供してくれることにはかなり限界がある(「網羅性」は打ち出の小槌ではない)。科学者の「仮説設定」を実際に成り立っているかどうか、検証する、科学がこれまで行ってきた真摯な、「観測されなければ証明されていない」(科学実証主義)という立場という正気に戻る必要があるように感じる。
 実証的検証・バリデーション技術として、選択反応モニタリング(Selected Reaction Monitoring, SRM)など重要な鍵を握る技術の開発を現在進行している(小職が、明確に書くと、どうもコピーされ金と政治力で、あたかも自分が中心でやったように発表するものがいる。経験より。なので、いまは伏せておく)。すなわち、「生体中に発現しているすべてのタンパク質種(翻訳後修飾やバリアントなど含め)の解析」と定義された「プロテオーム」や「プロテオミクス」が揺らいでいる。タンパク質の標的解析、他の分子も含めればBiomolecular Targeted Separation and Detection/Quantificationであり、この手法で、血液中の標的タンパク質の選択検出・定量を行うことができる。これまでできなかった血液に対して、標的分子群をターゲットして、簡潔、高速、ルーチンでアッセイができることになる。これが臨床バイオマーカーの根幹技術となっていく時代が来ていると感じる。
 
 

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